【羽化の作法 94】現在編 台風19号に龍を感じた

台風被害にあわれたみなさまに、心からお見舞い申し上げます。
一日も早く、いつもの暮らしに戻れますように。

私どもは幸い無事で、ホッと胸をなでおろしたところです。ポオエヤヨさんと「13月世大使館」の展示シミュレーションをして、「頑張るぞ!」と日々奮闘しているところに台風19号直撃のニュース。

「こんな時に限って!」と思ったのでした。この前の9月9日の台風15号でも、まさに直撃されてる最中に牛乳配達に出たのですから、今年は台風の当たり年です。


●台風15号

台風15号の時は、配達に出かける前とても不安で怖くなりました。台風に突っ込んでいくわけですから。起きた時はまだそれほどでもなく、配達中ピークに達し、配達が終わる頃には晴れていました。

ヘトヘトになってセンターに戻ってくると、私と同年齢の男性配達員は「台風、たいしたことなかったっすね」と、すずしげな表情で話しかけてきました。そしてセンター所長よりも長く勤めているベテラン女性配達員は、「台風ちょっと興奮しちゃったよね」と、むしろ楽しんでいた様子で面食らいました。

「台風で興奮するって子どもの心かよ!」と内心ツッコミを入れつつも、まだ強い風と晴れあがった空に、髪をなびかせた彼女が眩しく見えたのでした。

ボロ雑巾のようにセンターに戻って来た私は、雨風による物理的な身体疲労よりも、台風を怖がるメンタルで消耗していたのです。この差は人生における幸・不幸を分けてしまうのではないだろうか?


●台風19号

なので、今回の台風19号では、不安に陥らないようにしようと思ったのですが、ニュースやSNSが、煽る、煽る。ちょっと心配になったけど、「こういうのってみんな大袈裟に言うものだし、それにここら辺は台風被害はほとんどない地域だし、大丈夫」と思い込もうと努めました。

一方、ポオエヤヨさんもとても台風を怖がっていて、10月11日の打合せの日、彼女の自宅まで車で迎えに行くと、段ボールを抱えて出てきます。「ギャラリーの窓に貼ろう」と。

「そこまでやらなくても大丈夫ではないのかなあ?」と思ったけど、備えあれば憂いなし。さすが気が利くなあと、展示シミュレーションと打合せの後に、ギャラリーの窓に養生テープを貼り、段ボールで塞ぎました。

そして二人で、台風の被害がないよう《影の棚》にお祈りを捧げました。


《影の棚》13月世の影がこちらの世界(12月世)に染み出して出来た棚。結界。影を伝って移動するチェーニ様はこの棚から私たちの世界にやってきます。

チェーニ参照:チェーニのうた
https://gabrielgabriela-jp.blogspot.com/2015/01/13.html

そして12日、いよいよ台風がやって来ます。雨も強くなって来た午前10時半ごろに、ヤヨさんから連絡が来ます。ギャラリーに置いてあるアンティークのソファ『チェーニ様のソファ』を、応接間に移動させて欲しい、と。




ギャラリーと応接間は繋がっているのですが、応接間の方が床が45cmくらい高いのです。




家のすぐ近くには鴨川が流れていて、もし氾濫してギャラリーに浸水したら、ソファはオシャカです。

大分昔ですが鴨川は治水工事をしました。それ以来氾濫は一度もありません。だから大丈夫だと思っていました。

しかもソファは重くて長く、二人がかりでないと持ち上がりません。

しかし「鴨川氾濫するのかなあ?」と段々と不安になってきました。二階から川を眺めてみると、すでにかなり増水していました。

また、ギャラリー部分はテラスハウスにくっつけて、増設したプレハブみたいな小屋です。なので、超強風ならこの小屋ごと吹っ飛んでしまう可能性もなきにしも非ずなんだと、この時初めてそう思いました。




この台風で、リフォームやアンティーク家具がパーになる可能性もあるのか。牛乳配達でコツコツ貯めたお金と、親父の遺産をなげうった「13月世大使館」が始まる前になくなるのか。一旦そう思うと、そうなったらそうなったで、別に構わない気にもなってきたのです。

なので私は、「大丈夫だよ。それにソファ持ち上がらないし。浸水したらしたで、それも神の思し召しだから」と返答したのですが、ヤヨさんは引き下がりませんでした。それは天災に対する合理的な判断というよりも、台風に対する不安と恐怖に突き動かされている感じでした。

仕方ないのでひとりで、ソファをなんとか応接間にズリ上げました。「きっと普通の男ならもっと簡単に持ち上げるんだろうなあ」とか思いながら。

応接間に移動したソファの画像をヤヨさんに送るとすっかり安心したようでした。私は「やれやれ」という気持ちでした。

ところが、それによって鴨川が氾濫して浸水するというイメージが、リアルに浮かんで来て、ものすごく怖くなってきたのです。

気圧も低くなってきたのか、ぐったりしてしばらく横になるのでした。

しばらくすると、ヤヨさんから再び連絡が来て、同じ市内でも浸水危険の少ないヤヨさん家に避難しにきたらと呼びかけて貰ったのですが、もし台風でギャラリーが崩壊するとしたら、むしろそれを見届けたいと思い、応接間で過ごすことにしました。

とは言うものの、台風の恐怖はストレスでした。そこで湯船に浸かることにしました。




私はいつもお風呂に入る時、100均で買った防水ケースにiPhoneを入れて湯船に浸かります。ちょうどそこに、群馬に暮らす母からライン電話がかかってきて、まくしたてます。

「呑気に風呂なんかに入っている場合か! 今すぐ避難できるようにしておきなさい!」

今から思えば、母も不安だったのだろうと可哀想に思いますが、リアルタイムではうざいことこの上ない。「心配しなくて大丈夫だよ!」と、言い返すようになだめたのでした。

お風呂から上がると少し落ち着いたのですが、仕事は手につきませんでした。

夜の10時頃に警戒レベル5の通知がiPhoneに届きました。



むしろこの警報でびびるんですよ。

なんとなくそわそわしながら時間をやり過ごしたのですが、鴨川が氾濫したり、何かが飛んできて窓が割れたりすることなく、夜11時に頃には台風は通り過ぎた感じでした。



やがて雨と風の音は静かになり、替わりに虫の声が聞こえてきました。外に出てみると空気はモワッとしてましたが、空は晴れ渡り綺麗な月が出ていました。




●龍を感じた

今回の台風19号は、なぜか「龍」に感じました。風はまるで龍の鳴き声のように聞こえ、何かを伝えているかのようでした。

初めて龍を生々しく感じたのは、東日本大地震後のボランティアに出かけた時でした。寝泊まりしていた公民館で、幾度となく余震がありました。その時に地中を駆け抜けて行く龍の姿がありありと思い浮かんだのです。

「地震って生きものなんだ」って思ったのです。(想像上の生きものだけど)

上空の方で轟々と風が鳴っている時、「ああ、これはまさしく龍神さまだなあ」って思ったら、台風に対する恐怖の中にふと安堵を覚えました。

人間にとって自然はやっぱり怖い。その恐怖心を静めるために、幻獣は創られたのかも知れない。想像力には「心の回復」という、重要な機能があるんだろうなあと思ったのでした。

こういった想像力の使い方で、表現を発展させて行きたいです。


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/台風で太る】

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