【羽化の作法 09】僕らが出した「ありえない」条件
●二か所あった「段ボール村」
ラブホテルでの仕事を引き受けるきっかけになった現場は、京王新線方面の地下通路である。
(1・新宿西口地下広場)
JR新宿駅西口の地下改札を出ると、ロータリーが目の前に現れる。左側一帯が「西口地下広場」で、かつて「段ボール村」があった場所だ。現在「新宿西口イベント広場」と呼ばれて物産展などが開催されている場所あたりを「インフォメ前」と呼び、ブルーシートが敷かれ集会場となっていた。70年代にフォークゲリラとかいうのが行われていたらしいが、場所は多分ここだったのだろう。
(2・京王モール)
それら「西口地下広場」を左へ折れると、両側にお店が並ぶ地下繁華街「京王モール」がある。そこをずーっと歩いて行くと、京王線・都営新宿線の改札口に突き当たる。改札を右に折れて続いて行く道があり、その地下通路に段ボールハウスがずらーっと並んでいたのだ。
※そして実はもうひとつまだ描いていない場所に段ボール村がある
(3・都庁へ続くB通路)
後に動く歩道になる都庁へ抜けるB通路。この話しはまた後で。。
今調べて分かったことだが、この通りは「京王モール アネックス」と名付けられ、テナントも並んでいる。当時は改札口に最も近い場所に売店が一軒あるくらいであとはずーっと壁だった。
京王モールの地下通路は終電が終わると閉鎖される。開いている間だけ地下通路に段ボールハウスが建つ。なので、ここの段ボールハウスは「移動式組立型」となっていて、畳んで持ち運びができる面の広い段ボールが使用されていた。西口地下広場の段ボールハウスと建築様式が違うのだ。
僕とタケヲはまず「西口地下広場」に暮らしている人たちの段ボールハウスに絵を描き始めた。
ちょっとづつ絵が描かれた段ボールハウスが増えていった。
ヤマネが加わり、大きな段ボールハウスに『新宿の左目』を制作した。
そして京王新線の通路にある移動型段ボールハウスに絵を描いていく。
https://www.facebook.com/junichiro.take/photos/a.1053736031337950.1073741847.206228169422078/1104425659602320/?type=3&theater
そしてここ、京王新線の通路にある移動式段ボールハウスに描いている時に、ラブホテルに絵を描く仕事の依頼が来たのだ。
(デジクリ・ラブホテルに絵を描く仕事が来た)
●初仕事の受注スタイルがトンデモ?
僕らが絵を描くラブホテルは、千葉県の原木中山駅から歩いて20分くらいのところにあって、高速道路のすぐ近くだった。
依頼は駐車場の塀に壁画を描くことだった。ラブホテルだからなのか、塀は高く、2m40cm以上はあっただろう。幅はざっと40mくらいだっただろうか。
初めてのオファーが40m級の壁画だっていうことだけでも嬉しかった。それも「ラブホテル」という特殊性を持った建物だから妙にテンションは上がった。
頼む方も頼まれる方も初めてのことだから、まず何をどうするかから話し合う必要があった。僕が出した条件は以下のようなものだった。
1・ペンキなど壁画に使う材料は全部出してもらう
2・ラブホテルの一部屋を住居として提供してもらう
3・ラブホテルに暮らす間の食べものは提供してもらう
4・制作期間はこちらに任せてもらう
5・作業が終わった時にギャラをもらう
1〜3に関してはすんなりと受け入れてもらった。4の期間については「どのくらいかかるか分からない」と正直に言った時、社長は一瞬ギョッと驚いた表情をしたが、承諾してもらえた。今にして思えば、これが最も「ありえない」条件だったと思う。
5も了解してもらったけど、具体的にギャラがいくらになるかは決めなかった。こちらとしても仕上がりを見てもらって、いくら出すかを相手に判断してもらいたかった。驚いたならそれなりに高額、そうでもないと思ったら低額でも構わなかった。そういう心境だったのである。
今になるとわかるのだが、スケジュールとギャラはまず最初に決めることである。しかし、僕らはスケジュールとギャラを決めないやり方が初仕事だったので、これがひな形になってしまった。
このことが、後にまるで稼げなくなり、早朝に近所のタンポポをむしってきて食べる状態にまで至ることになるのだが、ともかく当時はそうするしか考えようがなかったのである。
1995年10月24日、タケヲが進捗を記録する日記を付けようと五線譜のノートを持ってきた。これが「制作ノート」の始まりだった。
【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/作品の調子はいいです】
2016年、今年は「好きをカタチにする」が第一の抱負です。例えば知合いのアーティストに「頑張ってね〜」だけではなく作品を買う・お金を払ってステージを観に行く、など可能な範囲で少しづつやってゆきたいです。
アーティストにとって本当に必要としてることは、美辞麗句ではなく実際に作品をお金を払って買ってくれること、だということが身に沁みて分かってきたのです。なので、まずは自分がそれを実行していこうと思います。
[One Wall One Art Project 〜produced by TeamUttoco〜]
埼玉県岩槻にある食堂カフェ・ラパンにて2月27日まで展示しております! 作品購入もできます!
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