【羽化の作法 32】武盾一郎逮捕される



『新宿夏まつり』が無事終わり、上尾に戻るとレンタカーのトラックでタケヲの家からハニワを積み込んだ。トラックがコラム式のマニュアル車なのがうれしかった。突起物オブジェにハニワのオブジェを被せる作品、題して『食卓』の設置決行だ。

新宿には真夜中に到着した。ハニワを突起物に被せ、食器を設置し、「一人っ子の食卓の風景」を作って行った。

僕たちの活動を週刊誌の記事にしてきた、カメラマンのPae soさんにも連絡をしておいた。ハニワの設置作業中にPae soさんはやってきて、眠たげにあくびを何回もしながらシャッターを切っていた。

しばらくすると二人のガードマンが現れて、「何をしてるんだ!」と聞いて来た。僕は、「東京都がこの突起物を“アート”だと言ってるそうなので、もうちょっとアートにしてあげようと協力しているのです。この作品をどう思いますか?」と聞き返してやった。

するとガードマンは「片付けなさい! 警察に通報しておきます!」と言って去って行った。警察が来たら現行犯逮捕になってしまうのだろう。僕たちは設置を終えると、トラックに乗って家に戻った。

トラックを返し、家に戻るとまだ興奮しているようなので酒を呑んだ。「都恥博」から「新宿夏まつり」の準備で、ここのところあんまり寝てなかったがまるで眠たくならなかった。

そうこうしているうちに朝になった。新宿では「ベルク」が始まっている。副店長で写真家の迫川尚子さんに「突起物にハニワを被せたオブジェを、昨夜の深夜に設置したんだけど、どうなってるか」を電話して訪ねてみた。

迫川さんからの返事は、「ハニワはすべて撤去されていて、もうない」とのことだった。

頭に来た僕は、もう一度新宿に行くことにした。豚毛の筆を何本かリュックに入れて、一睡もしないまま家を出た。

新宿に着いた。僕はペンキを置かせてもらっている西口のビルへ向かった。シャッターを持ち上げ、地下2階への階段を降りて、スナック「地下室のメロディ」の入り口横の、観葉植物の鉢植えの陰にあるペンキの入った紙袋から黒のペンキ缶だけを取り出すと、段ボール村のある西口地下道に向かった。

ハニワはなくなっていた。タケヲが一か月かけて作っていたハニワは、誰の目にも触れることなく撤去されてしまっていた。

悔しかった。並んだ突起物の前で僕はしゃがみこんだ。

しゃがんだままの態勢でリュックから筆を取り出し、黒のペンキ缶の蓋を開けて、筆先をペンキ缶に突っ込んだ。

黒い絵の具をたっぷり含んだ豚毛の筆を持つと、僕は突起物のカットされた斜めの面に顔を描いていった。絵を描き出すと、なぜか鼻歌を歌っていた。


https://www.facebook.com/junichiro.take/photos/a.1053736031337950.1073741847.206228169422078/1376438879067662/?type=3&theater

すぐにガードマンが現れ、「ここに絵を描いちゃダメですよ!」と言って来た。僕はまったく無視して、鼻歌を歌いながら突起物に顔を描いた。

「藤子不二雄の漫画みたいな顔を描きたいんだよな」と僕は思っていた。

ガードマンが去ったかと思うと、何人もの警察官がやって来た。僕は無視して突起物に顔の絵を描き続けた。

警察官が僕の腕を掴み上げた。

「何するんだよ!!」僕は激怒して叫んだ。

騒ぎを聞きつけて、段ボール村の人たちも何人か飛び出して来た。僕は警察官の手を振りほどき、突起物に戻り絵を描き続けようとして、もみ合いになった。

「ふざけんな! 最後まで描かせろ!」僕は怒鳴り散らしていた。警察官は何人もいる。

段ボール村の住人の一人が、バケツの水を警察官に向けて撒き散らした。もみ合いで警察官がペンキ缶を蹴っ飛ばしていて、黒ペンキが飛び散っている。

「大事なペンキをこぼすんじゃねえ!!」僕はさらに怒鳴った。

「まだ途中なんだよ!! 最後まで描かせろよ!!」

僕は突起物に顔を描き続けようとするが、6人もの警察官数人に担ぎ上げられてパトカーに押し込まれ、新宿署まで連行された。

突起物にハニワを被せる作業中の写真が週刊誌「フライデー」に掲載された。


●「排除の理論」VS「反体制芸術」
新宿西口地下通路オブジェに〝逆芸術攻撃〟かけた〝巨匠〟逮捕


https://www.facebook.com/junichiro.take/photos/a.1053736031337950.1073741847.206228169422078/1376448472400036/?type=3&theater
 「地下通路オブジェに落書き 自称画家を逮捕」20日の各紙朝刊に、こんな記事がいっせいに載った。
JR新宿駅から東京都庁に通じる地下通路に設置された突起物に人の顔などを描いたとして、28歳の「自称画家」が器物損壊の現行犯で逮捕されたのである。新宿警察署副署長の話によれば、事件の経緯は次の通りだ。
「19日未明、まず何者かが発泡スチロール製のハニワ状の人形をオブジェにかぶせていた。その後、通路の管理人が、オブジェに絵を描いている通称タケさんという男を見つけ、警察に通報。駆けつけた警察官がやめるよう注意したが、男は聞き入れなかったので、器物損壊で逮捕した」
写真はたまたま居あわせたカメラマンが撮った、「落書き現場」風景である。では、動機はいったい何か? 取り調べに対し、「タケさん」は、「近くを通りかかったら突然、絵を描きたい衝動に駆られた」と語っているという。
さて、このタケさん、こと武盾一郎クンは、かねてより新宿地下街のホームレスのダンボールハウスに絵を描きつづけてきた人物。それだけではない。本誌も報じた通り、この5月には市川市のラブホテルの一室いっぱいに巨大な壁画を完成させてもいる。「自称」どころか、自他ともに認める立派なダンボールアートの〝巨匠〟なのだ。
「キャンバスに描くだけが絵ではない」が持論のタケくんであれば、今回のも「落書き」どころか芸術活動の一環なのであろうか。
それはそうと、彼が人の顔を描き込んだオブジェとはいったい何なのか。実はこれ、7月17日の「動く歩道」の開通に合わせ、都建設局が新たに設置したものである。半径45cm高さ40cmほどの円柱形で、柱と柱の間などに600個が置かれている。では、その目的は?
「通路の環境を整備し、明るい雰囲気にするため」とは、都建設局の説明である。実際、円柱は8色のパステルカラーで塗られ、上から照明が当たるようになっている。しかし、本当の目的は別のところにあったようなのだ。
その証拠に、都建設局は当初、「ホームレスがまた戻ってこないようにダンボールを置けなくするのが目的」と明言してるのだ。その姿勢を物語るように、円柱上部は物が置けないようご丁寧に斜めにカットされている。
つまりはこのオブジェ、芸術の名を借りた「排除の理論」の産物にほかならない。その費用が1個6〜7万円で、計4千万円ナリ。カネの出所は、もちろん、都民の税金なのである。
そんな醜悪な「オブジェ」に武クンが「逆芸術攻撃」をかけ、絵を描いたからといって迷惑の程度は知れたもの。
それよりも、巨額の税金を使って、弱い者イジメの「落書き」以下のガラクタを作った方に、怒りを感じている都民の方が多いなんて、あのバカデカイ〝都庁の住民〟が知ってるわけないんだろうな。
(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/『仔猫のタムちゃん』演奏会来てね!】
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聴く展覧会・観る音楽会・組曲 仔猫のタムちゃん
日時:2017年4月9日(日)開場13:30 開演14:00 終了16:30
場所:ギャラリーゼフィール(大宮駅東口徒歩5分)
料金:前売 2,000円 当日 2,500円(全席自由)
https://www.facebook.com/events/141963569646400/

“小さな猫のタムちゃんは ある日ネズミさんに恋をした
けれども《事件》がおきて 深い闇に落ちてしまう…”
武 盾一郎・原作『ネズミに恋したネコのタムちゃん』が
10曲の朗読劇『組曲 仔猫のタムちゃん』になりました
ピアノとヴァイオリンと朗読でタムちゃんの心の世界を奏でます


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