【羽化の作法 33】拘留生活・その1 自ら感受性を抹殺した日々



新宿署に連行されて留置所に入れられる。番号を首からかけた写真を撮られ、拇印を押す。その時、警官は僕にこう言った。

「ここはいろんなのがいるからな」

僕は急に怖くなり拇印を押す指が震えた。手錠に繋がれながら留置部屋の方へ行く。6人部屋がずらっと並んでいる。
檻の前に立ち止まると、檻の中に入ってる男たちがいっせいにこっちを向いた。怖くて少しめまいがした。

檻の中に入れられ、僕は「よろしくお願いします」と檻の中の人たちに頭を下げた。
部屋で一番長く入ってそうな人が「とりあえず、便所を掃除しろ」と言った。
トイレは部屋の奥にある。

トイレを丁寧に磨いて戻ると、「なにで入った?」と質問された。

「器物損壊です」と答えた。

「はあ?」という感じのリアクションだった。多分、珍しいのだろう。

6人部屋の内訳は、一人は暴力団〇〇会の自称幹部、何をやって檻に入ったのかは不明。もう一人も暴力団関係の人で、覚せい剤の売買に関わってる人。そして麻薬をやって捕まった人。それから出稼ぎオーバーステイして捕まってる真面目なアジア人。といった感じだった。

罪が確定してる人は留置所から拘置所に送られるようで、人の入れ替わりは早かった。隣の隣あたりの部屋には人を殺した暴力団の人がいて怖かった。あの部屋ではなくて本当に良かった。
6人部屋には必ず、暴力団の人がいて、外国人がいて、麻薬関係の人がいるようだった。

●拘留日記より留置所の生活

https://www.facebook.com/junichiro.take/photos/a.1053736031337950.1073741847.206228169422078/1458499480861601/?type=3&theater

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僕が留置されたのは新宿署の6人部屋。間口は1間ほどで奥に長くなっている。一番奥にトイレがある。

朝は6:30に起床、天井の電気が自動で点灯し、「はい、起床!」と警官の号令がかかる。
起きると布団を畳んで布団部屋に運ぶ。僕は「43」と書かれた便所サンダルを履いて、檻から布団部屋まで布団を運び、檻に戻る。

一旦全員が檻に戻ってから「洗顔」。
再び檻から出て共同洗面所に行き、顔を洗い歯を磨く。終わると檻に戻る。

そして「朝食」。
部屋の中みんなでいっせいに食べる。

朝食が終わると掃除の時間がある。
掃除機が檻の中に入れられて、部屋の中に掃除機をかける。掃除する人はごく自然に持ち回りになる。

午前9時ちょっと前あたりに「運動」という時間がある。
檻から出てちょっと広い檻に行き、煙草を吸うのだ。煙草は二本まで。煙草の火は警官がつけてくれる。というのは、ライターを持つことが禁止されているから。
「運動」の時間は各檻が集まるので、結構な人数になる。監視の警官は5〜6人壁に立っていて、煙草に火をつける時に警官を呼ぶ。
警官に煙草の火をつけてもらうのは、なんだかお給仕をしてもらってるようでモゾモゾする。

10時頃になると「点検」というのがある。
警官隊が向こうの部屋から「点検! 1番! はい! 2番! はい!…以上 1号室異常なし!」みたいな号令が聞こえてくる。
檻の中の人は廊下の方に向かって座り、番号を呼ばれたら返事をする。僕は43番なので「43番!」と言われると、「はい!」と返事をする。
こういう軍隊みたいなのが僕は苦手だった。内心「くっだらねえよなあ、おい……」って思いながら自分の番号が呼ばれると、「はい!」と返事をした。

点検が終わると昼まで何もない。


●1996年9月3日(火)拘留されて15日目の日記より


留置所に入ってからは熟睡することが出来ない。誰でも。

だんだん精気が抜けて行くのが体感できる。

頭の中もシャープではなくなる。

留置所で何かのアイデアや想像(イメージ)を膨らませてみようとしても、どうにも出来ない。

目の前にあるのは灰色の壁だけ。

何も想い浮かばない。

脳の働きも体の働きも どんどん低下して行くようだ。

絵を描こうなどという気ももちろん起きない。

ただ、打ち上げられたマグロのように一日の大半を無駄に過ごす、そんな事しか出来ない。

感受性のアンテナをちょっとでも張ろうものなら苦しみだけが増長してしまう。

「絶望的」ではないが「なんの希望」も沸かない。

だから感受性を自ら飲み込み、無きものとしてマグロみたいに時間を潰していくのだ。

退屈で死にそうだが、何も想い浮かばない。

何にも集中出来ないから、もちろん本を読んでも何も頭に入らない。

ダラダラとしか過ごせないから夜は眠れない。

まともな神経に戻したら発狂してしまいそうだから、自ら感受性を抹殺する。

その状態を保ち続けて2週間。

奥の方に押し込まれたアンテナが腐って行く予感がある。

僕が早くここから出たいのはそのためである。

奥にしまっておかねばならない触覚、使っていない間に枯れてしまったらどうしよう。溶けてしまったらどうしよう。

どっちにしてもシャバに出て、1〜2週間のリハビリが必要だ、戦線復帰までに。

この時間のロスが「何か」に結びついてくれている事を願うより他はない。

「オルタナティブ」とは野心を温存する状態を示す。のだから。

(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/4月9日『仔猫のタムちゃん』演奏会】
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“小さな猫のタムちゃんは ある日ネズミさんに恋をしたけれども《事件》がおきて 深い闇に落ちてしまう…”
武 盾一郎・原作『ネズミに恋したネコのタムちゃん』が10曲の朗読劇『組曲 仔猫のタムちゃん』になりましたピアノとヴァイオリンと朗読でタムちゃんの心の世界を奏でます

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