しばらくすると、コーキとシンヤの二人がギャラリーを駒場寮内に立ち上げると言い出した。駒場寮にはいくつかギャラリーのような部屋はあったが、自分たちのギャラリーを作ろうというのだ。
名前は「Obscure(オブスキュア)」、ニコの『カメラ オブスキュア』からなのかなと思ったがほんとうの由来は分からない。
そんなある日、ゼロバーで呑んでるとコーキが「ギャラリーのこけら落としで展示をやらないか」と僕に話を持ちかけて来た。
ギャラリーみたいな箱で展示をしたことがなかったので、どうやったらいいのかさっぱり分からなかったが、「(うまくやれる)自信はないけど、ぜひやりたい」と、僕は即答した。
最初に思い付いた展示イメージは、「ギャラリーの床や壁一面に段ボールを敷き、病院用のベッドを一つ置く」だった。
展示期間中、ギャラリーのベッドで寝泊まりして、床と壁の全面に張られた段ボールにひたすら絵を描いて行く展示だ。
◎1997年6月3日(火)
野宿者支援のまつり「新宿夏まつり」の会合があった。意外なことに、ちゃんとミーティングに顔を出していたのだ。
その日の夜、夏まつりスタッフのひとり「トカちゃん」を誘って東大駒場寮に行く。彼は後の「ドキュメンタリー映画監督・土屋トカチ」である。
(参照『映画「フツーの仕事がしたい」:土屋トカチ監督インタビュー』)
腹の据わったカメラワークであるが、当時は繊細で少年のようだった「トカちゃん」である。この日の夜、コーキとシンヤがいたので、ギャラリーこけら落とし展の打合せをした。
最終日に、締めとして舞踏と打楽器とのコラボレーションをやることにしよう、とか。ずっと絵を描いてるので「武盾一郎ライブ」にするのはどうか、とか。8月8日午後8時8分に終了するのはどうか、とか。
そこでコンセプト第一稿がこんな感じになった。
「武盾一郎ライブ この展示は武盾一郎がギャラリーに暮らしながらその生命活動そのものを描くライブペインティングである。」
●『世紀末とのコラボレーション』DM完成
この後、もっといろんな人たちとセッションしていくことを主軸にした方が良いと、展示のコンセプトを修正していく。
今まで自分は複数人で絵を描いて来た。音楽や舞踏ともライブでコラボレーションして来た。
参照:羽化の作法[31]1996年「世界都恥博覧会」と「新宿夏まつり」
http://bn.dgcr.com/archives/20170124140400.html
他者との協働は、ひとりでは作れない思いもよらないものが生まれる。それが面白くて、自分の制作スタンスとなっていた。いろんな表現の人たちと交わっている状態を、みんなが体験する場にしたい。
ということで以下のようなテキスト出来上がった。
『世紀末とのコラボレーション』
95年から新宿ホームレスの段ボールハウスにペイントを始め、96年器物損壊で22日間の拘留生活を強いられるが、今もなお描き続けている。その武盾一郎が東京大学駒場寮Obscure Galleryで1週間のライヴペイントを行う。
DMはこんな感じに仕上がった。
期間は1997年8月2日(土)〜8月10日(日)の9日間。最終日だけではなく期間中出来るだけコラボレーションライブをすることにした。DMの入稿までに決まったコラボレーションは4日。
8/2:サンカラゴソジャ(パーカッショングループ)、エキン(踊り)
8/3:鷹野依登久(ペインター)、菅原亮(写真家)、橋本弘道(写真家)
8/9:小倉虫太郎(評論家)
8/10:サンカラゴンジャ(パーカッショングループ)、酒井敦(舞踏家)
●「こけら落とし」の「断髪式」
まず、窓のないコーナー二面を隙間なく段ボールにする。天井までは相当高い。かなり高い脚立を使って、ちょっと怖かった覚えがある。床まで段ボールを張り、床も半分くらい段ボールを敷いた。段ボール張りには、有り難いことにトカちゃんや東京シューレの人も手伝いに来てくれた。
初日に絵が何もないのは寂しいので、何日か前から絵を描いておくことにした。ベッドをどこからか手配して、展示前からギャラリーに寝泊りして制作する。
「こけら落とし」なので、髪の毛や当時生やしていた髭や体毛を全て剃ることにした。当時は髭を生やしていたのだ。
撮影:菅原亮 撮影場所:東京大学駒場寮 1997年 |
これから生まれるオブスキュアギャラリーで、生まれたての無毛の姿になる「断髪式」を行った。ゼロバーに出入りしていた歌舞伎役者のしのぶちゃんに髪の毛を剃って貰った。
参照:中村芝のぶ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E8%8A%9D%E3%81%AE%E3%81%B6
眉なしスキンヘッドの武盾一郎(撮影:関根正幸)
●『世紀末とのコラボレーション』開始!
8/2の初日と、8/10の最終日の二日に渡って、サンカラゴンジャにお願いした。ジャンベを中心としたパーカッショングループだ。そして「踊ってやってもいいよ」と言うので、ゼロバーの店主・エキンにも踊りを頼んだ。
8/3は段ボールハウスにも絵を描き、駒場寮にも部屋を借りてるイトヒサとカメラマン2人とのコラボレーションだ。
橋本弘道さんは、当日ポラロイドカメラで写真を撮って、壁にどんどん貼り付けていく。ライブではイトヒサと僕がペインティングしてるところを、カメラマンがフラッシュを焚くパフォーマンス。
この写真は8/3だと思うのだが女性が写ってるが誰だか思い出せない
(撮影:関根正幸)
コラボレーションは、DMに記載されたのだけではなく連日行った。「トカちゃん」の弾き語りとのコラボレーション、DJとのコラボレーション、ターンテーブルノイズとのコラボレーションなどなど。
日中絵を描いている時の様子(撮影:関根正幸)
8/9は評論文の朗読とペインティングのパフォーマンス。小倉虫太郎さんは上半身裸で、金だらいのようなものを叩きながら、ベンヤミンかなにかを読み上げていた。
8/10の最終日は、鶴山欣也さんの舞踏やサンカラゴンジャだけでなく、ディジリドゥを吹く人、ボイスパフォーマンスの人なども交え、オブスキュアギャラリー内だけでなく、野外にも出てパフォーマンスを行った。
ともかくカオスな空間にしたかったがその通りになった。
酒井敦さんは大野一雄の弟子で、鶴山欣也さんは大駱駝艦で、同じ舞踏でもちょっと違う。コラボレーションの後に、二人が目を合わせて頷き合ってるのが印象的だった。
大野一雄
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8E%E4%B8%80%E9%9B%84
大駱駝艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%A7%B1%E9%A7%9D%E8%89%A6
最終日はギャラリーから出て野外でもパフォーマンスを行った。
(撮影:関根正幸)
写真は関根正幸氏のブログより
http://blog.goo.ne.jp/sekinema/e/9f218b1b73a5c4c9ffc6c84d2dd7a989
http://blog.goo.ne.jp/sekinema/e/3326e868b4dba5b1447cf032a8b84c05
http://blog.goo.ne.jp/sekinema/e/a947ed8a8d6938a9a1e824a4a9674c47
http://blog.goo.ne.jp/sekinema/e/384fd332de6a428225bfb2a8a185a11a
http://blog.goo.ne.jp/sekinema/e/2ef94ff419dd8c13801416ec777b5751
http://blog.goo.ne.jp/sekinema/e/f9157e80a2ee8aafbef8bc43a05483a2
●絵はホームレス支援の「第四回・新宿夏まつりへ」
『世紀末とのコラボレーション』で描いた絵は、8月17日に新宿中央公園で行われたホームレス支援のまつり「第四回・新宿夏まつり」のステージのバックとして飾られた。そこで僕は大友良英さんとコラボレーションする。
『新宿夏まつり』 1997年8月17日:新宿中央公園 バックの巨大絵は東京大学駒場寮で制作 大友良英さん(写真左端・演奏中)とのライブコラボレーション |
新宿夏まつり 1997. 8. 17
『世紀末とのコラボレーション』で描いた絵は、駒場寮と新宿を繋いでくれたのだった。(つづく)
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