【羽化の作法 69】1998年「しんげんち」へ

『お月さまが落っこちてきた夜』
351×244mm  鉛筆 色鉛筆 ボールペン 紙 1999年
この絵は地震の阪神淡路大震災から3年経っても公園に現存していたテント村「しんげんち」で描きました。私はしばらくの間「しんげんち」のコンテナハウスに暮らしながら制作をしました。「お月様が落っこちてきた夜」とは地震のことを指しています。

この絵は『お月さまが落っこちてきた夜』というタイトルで、1999年神戸市須磨区下中島公園にある非公認避難所「しんげんち」で描いた作品です。

『お月さまが落っこちてきた夜』とは、阪神淡路大震災のことをさしています。


「しんげんち」は、街中にある普通の公園内にコンテナハウスが10棟ほど立ち並ぶ集落で、1995年の阪神淡路大震災で被災して仮設住宅にすら入れなかった人たちが、いわば「スクワット(不法占拠)」して作ったテント村です。

神戸市須磨区下中島公園「しんげんち」1998年
1998年〜2001年、阪神淡路大震災のテント村に暮らして制作します。

私はこのテント村「しんげんち」に、1998年1月17日から滞在することになりました。自主的な動機はなかった、といっていいでしょう。

コリーヌ・ブレに「(まだ被災者がいて復興できていない)神戸に行って何かをするといい」と強く推されて、行く決断をしたのでした。自分を褒めてくれたのがただ嬉しくて、彼女の言う通りにしたのです。

お金のことも、アーティスト活動としての見通しも、予定も、何もありませんでした。

ただ、ポンと見知らぬ場所に放り出されて、そこからサバイバルゲームを始めるような感じでした。

ではこの「しんげんち」とはどんな村だったのでしょう。

このテント村は長田町の被災者がメインのコミュニティでした。長田町とは靴工場などが密集してたところらしく、地震と火事で壊滅的な被害を受けた地域だったようです。

私はここら辺の地域の歴史にはほとんど無知だったのですが、どうも震災で最も被害がひどかった場所が、在日コリアンと被差別部落の人たちの暮らす地域で、その人たちがどういうわけかまるで支援の手が差し伸べられておらず、挙げ句、自主的に公園を占拠して助け合っている拠点が、この「しんげんち」だったのです。

復興の差異に差別が働いてたのかどうかは分かりませんが、見てはいけない日本の歴史の闇に、覆い被さった蓋のようなものがあるような感じもしました。

なんならその場所に暮らしながら、岡本太郎よろしく「芸術は爆発だ!」と陽気にアートの花を咲かせてやろうじゃないか! と意気込むしかありませんでした。自分なりの正義感もあったと思います。

「もし差別があったならばそんなもの吹き飛ばしてやる」と。「芸術で革命を起こすのさ!」と。なんのあてもないけどそう思ったのです。と言うか、そう思い込むしかありませんでした。

「走り出したら何か答えが出るだろうなんて俺もあてにはしてないさ 男だったら流れ弾のひとつやふたつ
胸にいつでもささってる」

そんな歌詞(SHOGUN「男達のメロディー」)を心の励みにして、神戸の滞在に挑みました。

足掛け3年にわたり、私は神戸で何かを形にしようと試行錯誤しました。

「しんげんち」ではコンテナハウスの隙間を野外アトリエにしていました。


結果を先に言うと、私はこの神戸での体験で7〜8年にわたり、うつ状態に苦しむことになりました。自殺寸前まで追い込まれました。

要するにアーティストとして何も成すことなく、「芸術で爆発する」ことはおろか、何の意味も役にも立たず、最終的には追い出されて、身も心もボロボロになって、一文無しで上尾の団地に倒れるように帰ってきたのです。

2018年に福島市に設置された、現代アーティストのヤノベケンジさんの作品『サン・チャイルド』が地元の人たちの意見によって撤去されるニュースがありましたが、私から言わせたらそんなことは大成功の類いです。
http://www.minyu-net.com/news/news/FM20180829-301929.php


毎朝、「無能な自分は死ぬべき人間だ」という文言で目覚め、ふと我に帰ると「死にたい」と思うのでした。毎日毎日、「自分は生きていても意味はない」「死んだほうがいい」「死ぬべきだ」「死にたい」という言葉が、私の意識を襲うのでした。

回復の兆しが見えたのは2009年でした。

ある朝、お腹のあたりが光るような奇妙な感触を覚えて、目覚めたのでした。そしてその日の朝は、「死んだほうがいい」という言葉が聴こえて来なかったのです。

このお腹に光を宿すような体験をした日をさかいに、徐々に「自分は死ぬべきだ」という言葉が発生しなくなって行ったのです。

ただ体調が最も悪くなるはそのあとの2011年で、とうとう怖くて電車にも乗れなくなってしまうのでした。それは夏至が過ぎた後に、最高気温が来るような感じでした。

そんな、人生どん底まで落ちるきっかけが、神戸での滞在制作だったことは事実でしょう。

そしてまた、この神戸での体験がきっかけとなって私は「ファンタジー」を描くことになるのです。絶望の淵から「ファンタジー」が芽生えてきたのはとても不思議でした。

私の自分自身が、自分の作品の主人公でした。ライブペインティングなどのパフォーマンスを多くやったのは、自分の身体も丸ごと作品の内側に入れるからでした。

「新宿西口地下道ダンボールハウス絵画」では、新宿の街が丸ごと絵画だったし、「東京大学駒場寮」では、駒場寮が丸ごと私の絵画だったのです。

なので実際に私が描いてる画面の絵は、作品のほんの一部でしかなかったのです。つまり、私の絵は不完全なカケラでしかなく、最初はそれがすごく面白かったのです。

ところが、神戸をきっかけにして、私は体験を作品内に封入して完結させて、自分から独立させたいと思うようになって行ったのでした。

体験を籠めるならエッセーのようなスナップのような写実ではなく、また批評でもなく、「ファンタジー」だ、と強く思うようになって行ったのです。

ファンタジーに行くきっかけになったのが、コンテナハウスに滞在している時に見た夢でした。


岡本太郎とゾンネンシュターンの絵が混ざったような世界に、私は立っていました。赤い有機的な曲線の巨大な何かが漂っています。

すると「縄文と現在を結ぶのはファンタジー」という意味合いのことが、言語ではなくて直接テレパシーを受けたように、何か啓示でも授かったような感じで響いてきたのです。

そして私はすごくそれを「理解した! 合点した!」と言う感触を味わったのでした。

そこで私は目覚めました。ナゾナゾを解いた時のような快感が、残り香のようにまだ胸に火照っていました。

「これってどう言う意味だろう?」
「ひょっとして神話をちゃんと読めってことかな?」

私はそう解釈したのでした。それから私は、日本神話に初めて興味を抱くことになるのでした。

私はコンテナハウスに暮し始める初日の1月17日、市役所前での被災者たちの抗議集会のイベントで、ライブペインティングをしました。自分にできることは内側から寄り添って描くことだけでした。

それから、集会所となっている「しんげんち」のコンテナハウスに数か月かけてペインティングし、パネルに絵を描き続けました。

そして6月に行われる「しんげんち祭り」のスタッフとして、祭りを盛り上げるためにあちこちに駆け回るのでした。

「しんげんち」ペインティング
テント村の集会所になっていた2つのコンテナを組み合わせた建物を丸ごとペインティング
1998年 武盾一郎と鷹野依登久のコラボレーション

「しんげんち」滞在中、コンパネ二枚に描かれた絵
素材はペンキ
A-Musik『生きてるうちに見られなかった夢を』のイメージに使われています
http://am.jungle-jp.com/

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