牛乳配達をしていたある日、夜明け前の暗闇の中。
車を降りて家の裏側に回り込んだ街灯の灯りの届かないところに配達ボックスの置いてある届け先がある。わりと。
頭にライトを点けながら小走りに家の裏側に折れ曲がると、右前方にスラックスを履いた男性が立っていて、あまりにもびっくりしたので「おわっ!!!」と声を上げてしまった。
そのあとよく見てみるとその男は建物の柱だった。
暗がりで足元を照らしながら歩くと前方に垂直の物体(柱)がある。
地面にある土台から伸びるその棒は、靴と足に似た構造だ。
頭に付けるライトだけではよく見えない。
そうすると脳内で視覚情報を勝手に補完するのようなのだ。
私の場合「人間」にしてしまうのだが、狩猟採集時代の若者だったらイノシシに見えたかもしれない。
情報のカケラがあると脳内でクリエイトする、このリアルタイム3Dオブジェクト生成を「幽霊」と呼んでいる人は結構いるなあと思ったのだ。
以降、私は配達のたびに幽霊を見ることになる。
家の前で座ってる女性は郵便受け。
こっちを見つめる子供は円形の表札。
暗くて形態の「きっかけ」しか見えない時、瞬時にリアルに人を作る。近づいて見ていくと柱や垣根やポールに戻っていく。
「今日も脳が頑張ってくれている」
私たちは見てるし作っているのだ。
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