要点:中野信子さんは「芸術=象徴的価値を複雑に扱う能力」が人類の生存に寄与した可能性を指摘。
アートは“配慮範囲(Care Range)”を拡張する認知装置であり、進化的に有利に働いたのではないかという仮説です。
1. 芸術は人類を救ったのか?
人類の前頭前野は他のホモ属よりも異常に大きい。従来の説明は「先読み能力」「戦略的思考」「抑制機能」などですが、中野氏は別の可能性を示唆します。
「芸術(象徴的価値の体系を扱う力)が人類を絶滅から救ったのではないか」
人間は「明日生きるために直接必要ないもの」(愛・倫理・アート等)に時間や資源を割く。合理的に見えないその性質こそが、人類が生き延びた理由かもしれないのです。
2. 配慮範囲(Care Range)の拡張
芸術の核心的な機能として挙げられるのが「配慮範囲を広げること」です。
- 空間:自分 → 家族 → 共同体 → 地球全体
- 時間:現在 → 数年先 → 数百年 → 宇宙的スケール
- 人数:1人 → 数人 → 集団150人(ダンバー数) → さらに拡張
範囲が広ければ広いほど、その人は「運が良い=生存上有利」になる。
つまり芸術は、自己と他者の境界を拡張し、究極のエゴイズム(利己主義)を究極のアルトルイズム(利他主義)に変換する可能性を持つのです。
3. 宗教からアートへ:役割の移行
かつて宗教が担っていた「配慮範囲を地球規模・宇宙規模に拡大する」役割。
しかし科学の台頭によって宗教権威は揺らいでおり、その代替を担えるものとして現代アートが浮上しているのではないかと考えられます。
4. 現代アートの力:視点を変える装置
コンセプチュアル・アートは「物の見方を変える」ことを通じて配慮範囲を拡張します。
例えば、ボルタンスキーの展示は死や記憶、来世を想起させ、今この瞬間の生の価値を再確認させるものでした。
芸術は“非合理”な感情やスピリチュアルを整理し直し、人類の認知を拡張させる。
その機能こそが、資源枯渇や対立を回避しうる「生存適応的な仕組み」なのです。
5. 結論:アートは人類の進化的必然
芸術は「役に立たないもの」ではなく、むしろ人類を人類たらしめた進化装置。
配慮範囲を拡張することで、自己と他者の境界を揺らし、共存を可能にする。
その力を意識的に使うことで、私たちはより良い未来を築くことができるのではないでしょうか。
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