言葉を時間で仕分ける:「物語」と「詩」について

言葉を「時間の流れに沿うか、沿わないか」というシンプルな物差しで仕分けたら、どうなるでしょう?
この捉え方をすることによって、「物語的なるもの」と「詩的なるもの」という大きな区分けが見えてきます。
さらには幸福感とも繋がるような気がしています。
この記事では、そのための思考方法を順を追って解説します。

1. まずは2つに分けてみる:「流れる言葉」と「瞬間と永遠の言葉」

  • 時間のある言葉(流れる言葉):物語のように、順番因果関係がとても大切。順番を入れ替えると、意味が分からなくなったり、結果が変わってしまったりします。
  • 時間のない言葉(瞬間と永遠の言葉):詩や数式のように、時間の流れを必要としない言葉。いつ、どこから読んでも価値は同じです。

2. それぞれの世界をのぞいてみよう


A. 時間の流れに乗る言葉たち

  • 物語:ヒーローの冒険や、ある家族の歴史など。時間の流れに乗って「意味」を運ぶ船です。
  • 解説:「なぜなら〜」と理由を述べたり、「最初に、次に」と段階を追って説明したり。分かりやすさが命です。
  • 手順:料理のレシピやIKEAの家具の組み立て説明書。順番は絶対で、入れ替えると失敗します。

B. 時間から独立した言葉たち

  • :夕焼けの美しさや、ふとした寂しさといった感情の瞬間を切り取ります。論理より、心に響くかが大切です。
  • 科学:「F=ma」のような法則やモデル。昨日も今日も、そして明日も変わらない普遍的な真理を語ります。
  • リスト:買い物リストや電話帳、好きな映画のトップ10。情報を並べて見せることが目的で、並び順に時間の流れはありません。

3. 一覧表で、思考を整理する


A:時間的表現(物語・解説・手順)

物語 解説 手順
目的 経験に意味を与え、共有する 物事を分かりやすく伝える 目的を確実に達成させる
時間との関係 時間の流れと因果関係が命 導入→展開→結論の段階を踏む 順番を間違うと失敗する
評価ポイント 面白いか、共感できるか 分かりやすいか、納得できるか 再現できるか、安全か

B:非時間的表現(詩・科学・リスト)

科学 リスト
目的 感情やイメージを呼び起こす 普遍的な法則を示す 情報を整理し、見やすくする
時間との関係 「今、この瞬間」を切り取る 「いつでも、どこでも」成り立つ 静的に並んでいるだけ
評価ポイント 美しいか、心に響くか 正しいか、証明できるか 正確か、網羅されているか

4. 混ざり合う、境界線の言葉たち

実際には、両方の性質をあわせ持つ表現もたくさんあります。そんなときは、慌てずに分解して考えてみましょう。

  • 例1:物語を秘めた詩(叙事詩)
    詩の形式で書かれていても、英雄の壮大な旅のように物語が核なら、それは「時間」側です。詩の美しさはスタイル、骨格は物語と捉えます。
  • 例2:発見のドラマ(科学史)
    法則自体は「時間なし」ですが、科学者がそれにたどり着くまでの苦労やひらめきの過程は、感動的な「時間あり」の物語です。
  • 例3:隠れた手順(チェックリスト)
    「出発前チェックリスト」は、一見ただのリストですが、「エンジンをかける前に確認する」という暗黙の順序があれば、それは「時間」側の手順です。

迷ったときの「魔法の質問」
「もし、この順番を入れ替えたら台無しになるか?」
この問いに「Yes」なら時間側、「No」なら非時間側。このシンプルな問いが、あなたの思考をクリアにしてくれます。


5. まとめ:かつては言葉は「詩(瞬間と永遠)」だった、のちに「物語(時間の流れ)」が生まれた

この「時間の物差し」は、後から出来たものかも知れません。最初、意味や言葉は非時間的だった、と。

それは言ってみれば「瞬間=永遠」です。「今ここ」。それは「詩」です。
たった一言で悠久の時と広大なスケールをも表現できます。絵で言えば抽象画です。喩えるなら生まれたまんまのエントロピーが低い状態。魂や生そのものと言っても良いでしょう。

そして、時が経つに連れ、「今ここ」に時間の流れが加わると「物語」が現れます。そのことによって、内容がより具体化します。絵で言えば具象画です。一つ一つを描写していくことになるのでエントロピーは増えて多くの言葉を必要とするようになりますが、それらが自己組織化されるように物語化されていくと、人々に分かりやすく伝わるようになっていきます。

右脳的な「詩」から始まり、左脳的な「物語性」が加わって、豊かな言語空間に発展していった。と捉えることができるのかも知れません。

詩・科学・リストは、いつでもそこにある夜空の星々による星座。
物語・解説・手順は、時間というレールの上を走る銀河鉄道。

両者の違いを意識し、上手に組み合わせることで、表現はもっと豊かになるはずです。



最後までお読みいただき有り難うございました!

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