製品と商品と作品

線譜『リング』
220×220mm ペン 紙 2018年
「小説すばる2018年10月号/集英社」
樋口恭介『輪ゴム飛ばし師』扉絵


「製品」と「商品」と「作品」の仕事を、
ざっくりと「デザイン」と「イラスト」と「アート」と言ったりする。

「製品」と「商品」と「作品」には「クリエイティビティ」が関わってくるけれど、そこには違いがある。

製品(デザイン)

「製品」には「アフォーダンス」と呼ばれるような、より認知の根源に近いところのクリエイティブが求められる。

椅子だったら、それは子供から老人まで、どこの文化の人に対してでも、座ってみたくなるデザインが望ましい。
そのデザインは「独創性を羽ばたかせる」よりも、まずは「人間の認知や人間の動きの原理」から探り出していく方がより良いデザインが生まれる。

スマートフォンに取扱説明書がないのは、より根源的な人間の認知に則してるからだ。なんの説明もなく子供にスマートフォンを渡すとあっという間に使いこなす。だから全世界の人々に普及しているのだ。「デザイン」とはつまりこういうものである。

ちなみに、昔の車の窓ガラスの開閉はドアにある取手をくるくると回す仕様になっていた。
今の子供にはそれが全く分からない。
「窓を開けたいけどどうするの?」と聞かれて、
「それを回して」と取手を指差しても、どのように回すのかすらも分からないのだ。
この「デザイン」は窓を開閉させるアフォーダンスとしては失敗していたことが分かるのだ。

「昔の車のデザインは良かった」と言う人は私も含めて多い。
がしかし、デザインとしても車は確実に進歩していて、今の車の方がストレスが圧倒的に少ないのも事実だ。

私は今でも95年製のマニュアル車を乗っていて愛しているのだが、それは「酔狂」なのである。
可愛すぎる愛車サンバーディアスクラシック。
バンパーは凹み、ドアミラーは壊れ、エンジンもこの前また壊れて修理した。優れてるから愛するわけではない。コスパやスペックや合理性で愛が生まれるわけでもない。


「商品(イラストレーション)」と「作品(アート)」の違い

「商品とはその価値が商品自体にあり、作品はその価値が買い手にある」と言えるだろう。

どう言うことかというと、
「商品」とは原価と人件費から厳密に価格が割り出される。「商品」の価値は原材料と加工の価値が厳密に反映される。
なので商品の価値は商品そのものにある。

それに対して「作品」は、例えば、原価が10円で10秒で描いたとしても10万円の価格を付けていいものである。
また逆に、原価が10万円で1年かけた制作した「作品」に1万円の価格を付けてもいいものである。趣味で作品を作ってる場合はこのようになる。



悪徳新興宗教の高価な「壺」と、高価格を付けた「作品」の違い

原価に対して価格が高いことだけに着目すると、新興宗教が信者に買わせる高価な「壺」と、高価な作品は同じじゃないか? という疑問も生まれてくるでしょう。

まず、高価な「壺」は、買う人側に価値を一切与えてないのが特徴である。
「壺には神秘的なパワーがある」。高ければ高いほどパワーが高い。神秘の力なので上限はない。
なんの力もなく価値もない信者は壺を買うことによってパワーを授かる、という構図になる。

それに対して「作品」の価値とは何かというと、
その作品を「素敵!」と感じた買い手の「心」に対して付けられた価値である。
つまり、価値が作品側にあるというよりも、買い手側の「心」にあるのだ。

「高価な壺を買う」と言うことは、「価値のない私」と「価値のある壺」の図式である。

それに対して、
「高価な作品を買う」と言うことは、その作品を「素晴らしい!」と感じた「自分自身の心」にお金を支払う体験なのである。

ここが、「壺」と「作品」の大きな違いなのである。


買い手にとって「商品」は低価格の方が望ましいが、「作品」は高価格の方が望ましいのはこの為である。
(なので作者が低価格で「作品」を売って、買い手が「ラッキー!」と思って買った場合、それは「作品」的なのかは疑問である)


「作品」の作者は、自分と作品の価値を高める努力をすることも当然必要であるが、
自分の作品を「素敵!」と言って買って貰えたならば、その人の心意気を保証する方がより重要で、その為の品質向上なのである。


「素敵な作品ですね!」と誰かに言ってもらえたら、
「有り難うございます。そう感じたあなたの心の方がもっと素敵ですよ!」と答えることが重要なのだ。(なかなか恥ずかしくて言えないんだけどね。。。)


「アートって素敵だなあ、、、」と内心思っていても、なかなか購買に一歩が踏み出せない人って潜在的にはとても多いと思うんです。
「この作品がいい!って感じた自分の気持ちを大切することの喜び」を実感していただく為にもアーティストである私はあなたの背中を押したいです。


もし、私の作品を「あ、いいなあ」って思ってくださったなら、
私はとっても嬉しいです。有り難うございます。
そして、
その感性、その気持ちこそが素晴らしいものなんですよ。


これからも頑張ります!!


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